Masukゾルダ様も人使いが荒いというかなんと言うかの…… おいどんも頑張ってあのラファエルとクラウディアを追い詰めて捕まえたのにの。 すぐに転移魔法使えとおっしゃる。 少しぐらいはおいどんを気づかってくれてもいいのにな。 心の中でそんなことを考えていたら、坊ちゃんがおいどんの方へと近づいてきた。「シータ、ごめん。 一緒に戦うはずが、途中からあの二人任せっきりになっちゃって」「いや、お気遣いなく。 もともと一人で相手するはずだったからの」「ゾルダも弟のことが気になるんでしょ? せっかくラファエルとクラウディアを捕まえたシータに、さらに無理言って」坊ちゃんはおいどんのことを気づかってくれておるのかの。 それともおいどんに顔に出ておったかの。 そうであれば気をつけないといけないの。「ゾルダ様はいつも通りだとは思いますがの。 それでも坊ちゃんだけにでも気づかってもらえたのは嬉しいですの。 ところで……おいどんの戦いぶりはどうだったですかの?」「ごめん、こっちもいろいろとあったので、しっかりと見ていなかった」「ならば、おいどんがどうやってラファエルとクラウディアを捕らえたかをお聞かせしましょう」おいどんは見ていなかった坊ちゃんのために二人との戦いを振り返り始めた――『ゼド様は私たちに何をお渡しになったのですか……』『あれー? またおばさんが増えたじゃん ウケるー』ラファエルとクラウディアはどうやらあの仕掛けを知らなかったようですの。 おいどんたちも封印されていたのであれば、ヒルダ様も当然こうなっているのはわかるがの……『おい、お前らはこのことは知らなかったのかの?』『知る訳ねーじゃん。 ゼド様が勇者に渡せっていうから持ってきただけだって』『何かしらゼド様が考えていらっしゃることは分かっておりましたが……』どうやら策があるというぐらいの事しか知らなかったようですの。 しかし、あのヒルダ様の様子は少し違う感じがするの。 ゼド坊ちゃんが何か考えていると言うのであれば、何もないってことはなさそうですの。ヒルダ様と坊ちゃんの心配をしていたおいどんに対してラファエルは『余裕ですね。 今は私とクラウディアの相手をしているはずですよ』と言い、連続で火炎魔法を唱えてきた。『余裕ではないがの。 気になって見
は……恥ずかしいったらありゃしない。 なんで罵倒なんかしないといけないんだ。 俺はSでもMでもなくノーマルだって……覚悟を決めて言ってはみたものの、顔から火が出るような思いだった。 ヒルダが倒れたからよかったけど、これで何の効果も無かったら……ちょっとぞっとする。 ゾルダにもいろいろと突っ込まれたが、恥ずかしくてまともに顔も見れていない。 知らず知らずに、顔を手で覆っていた。 その時「アグリ、危ないのじゃ!」ゾルダの大きな声が聞こえてきた。「何が危ないって……」覆っていた手を外すと、ヒルダの上に固まっていた紫の霧が鋭い刃となり俺の方へ向かっていた。「うぁーーーー」突然の出来事に叫んで腕で顔を隠して身構えることしか出来なかった。 鋭い紫紺の殺気が俺の肌を刺すような感覚を感じる。 俺はこのままやられてしまうのか……バチーン――大きな音と共に濃紫の塵が飛び散った。 もうこれで終わりか…… 呆気ないなかったな、俺の人生も。 結局魔王だって倒せなかったし。 残されたゾルダたちはまた封印されてしまうのだろうか……などとあれこれ考えていたが、痛みが全然ない。 ふと顔を上げると目の前に居たのは、さっきまでそこに倒れていたヒルダだった。「あぁあん、そんなに慌てなくてもいいのに、このあわてんぼうさん。 うーん……でもね、あなたの攻めは……あまり美味しくないわ。 そうね……この子の方が…… 考えただけでゾクゾクするわ」紫紺の刃がヒルダを突き刺してはいるのもの、悦に入った表情をしているヒルダ。 俺の方を向くとますます悦に入った顔になっていく。「あ……ありがとうございます。 でも……それ、大丈夫ですか?」その尋常じゃない喜びに若干引きつつも、俺を庇ってくれたヒルダを気づかった。「あら、これぐらい平気よ。 全然足りないぐらいだわ」そう言いながら、濃紫の刃を少しづつ抜いていく。 俺から見ると痛そうに見えるその動作も、ヒルダは喜びながら行っていた。「姉貴、正気に戻ったのかのぅ? あやつを助けてくれて、助かったのじゃ」遅れてゾルダが俺の目の前に来て、ヒルダのことを心配していた。「あら、ゾルダちゃんが人の心配をしているなんて珍しいこともあるのね。 しかも名前まで呼んで」ヒルダは無数の紫紺の針たちを丁寧に
「そろそろ正気を取り戻すのじゃ、姉貴」まともに戦えばワシは勝てるじゃろうが、それでは姉貴が無事では済まぬはずじゃ。いつもと違う感じじゃから、姉貴の本意ではないのじゃろう。何かしら細工がされているはずじゃとは思うのだが……「あら、わっちはいつでも正気よ。 狂っているのはお前よ、この脳筋バカ娘!」ただ姉貴の姿を見ても周りを見ても何も感じられぬしのぅ。それともあのゼドが送り込んできた二人……なんと言ったかのぅ……まぁ、名前なぞいいか。あいつらが何かしておるのか……二人がいる方を見やると、まだシータが相手をしておる。それにあれだけ追い詰められておると、こちらにかまけている余裕はないじゃろ。だから、あいつらが何か裏でしているということはないのぅ。「あぁーっ、もう考えても分からんのじゃ。 とにかく、いつもと違うのじゃから、姉貴は正気ではないのじゃ!」そう言いながら、魔法で足止めをしたり、正気に戻るように攻撃をしておるのじゃが……やっぱりこの程度じゃ、姉貴には効かんのぅ。何せあの性格が故に身につけた力じゃから、ある程度のダメージをものともせんからのぅ。とりあえず正気に戻るまではこのままかのぅ。そう考えて、姉貴の様子を伺いながら、とりあえず回避をしておったところに、あやつが割り込んできた。ワシと姉貴の間に入り込んだあやつは顔を真っ赤にしながら立ちふさがっておった。その様子を見てか、姉貴も動きを止めた。「何をしておるのじゃ、おぬしは。 巻き添えを食いたいのか!」あやつを押しのけようと手をだそうとしたところだったのじゃが「と……とりあえず、俺に任せてくれ」あやつの眼も泳ぎ、動揺しておるのがすぐわかったのじゃ。それでも照れくさそうにしている意味がよくわらんがのぅ。「あら、やだわ。 わっちのところへ来てくれるのかしら」姉貴はよく知らないあやつのことを何故そこまで好意を持っておるのかはわからんのじゃが、妖艶な笑顔であやつを見ておる。ますます顔が赤くなるあやつ。「お……おぬし…… もしかして、姉貴に惚れたのか?」「そんなことあるかー! ちょっと思いついたことがあるんだけど、それが恥ずかしいだけだって」あやつはそう言うと、大きく息を吸いこんで吐き出しておる。そして、両手で頬を叩くと、また一歩前にでて姉貴に近づいていきお
ん? 今、一体何が起きた?確かあの時、俺が振った剣がラファエルを掠めた。 今まで空振りだったのがようやく当たって喜んだのもつかの間だった。 その時足についていた鎧が落ちてきたのを拾ったはずだった。 そう拾っただけだったのだが……「なんで女の人に絡まれているんだ?」俺にベッタリと体をつけてガシッと腕を組んで離さない。 痛いぐらいに掴んでいるので、離れることも出来ない。 顔は笑っているものの、目だけが冷たく光って見えていた。「女の人って、そんな他人行儀な言い方はないわね。 わっちよ、わっち」「そんなこと言われても、こっちになんか知り合いはいないし……」俺以外にこっちへ来たって聞いたことも見たこともないから、赤の他人のはずなんだが…… 思わずゾルダの方に顔を向けると、あのゾルダが驚いた表情でポカンとしている。「お前は…… いや、あなたは……」驚いた中でも、何かを話そうとしているようだが、言葉になっていないようだ。「もしかして……ゾルダのお知り合いかなにかでしょうか?」恐る恐る抱きついている女の人に確認をする。 するとその女性は「知り合いも知り合いだよなぁ、ゾルダ!」ドスの効いた声でゾルダを睨みつけている。「あ……姉貴?」ゾルダの口からまたも身内を思わせる一言が出てきた。「えっ? この人、ゾルダのお姉さんなの?」弟が危ないとの話が出てきたと後は、お姉さんの登場か。 いったい何人姉弟なのか?「いや…… 正確には、ワシの父の妹じゃ……」ゾルダが随分遠回しな言い方をしている。 少し気にはなったが、俺は気にせずに「あぁ、おばさんね」と言ったとたん、掴んでいた手の力がさらに入ってきた。「わっちのこと、おばさんって言ったわね。 どうしてくれようかしら」俺の事を睨みつけて顔を寄せ
「先を急ごうとしておるのに、なんかきおったのぅ」シータに言って、転移魔法で移動しようとした矢先に、高速の光がこちらに向かってきおった。 その光がワシらの前で降り立つと、現れたのは……「あなた方にはここで死んでいただきます」「あーしはどうでもいいんだけど、命令だしね。 ちょー退屈なんだよねー」なんかいきがっておるのぅ、こやつらは。 男女の魔族が殺気を立てて、ワシらに立ち向かおうとしておる。「なんじゃ、お前らは? ワシは先を急いでおるのじゃ。 邪魔じゃ、どけ」ワシは少し焦りがあるのかのぅ。 スビモの伝言を思い出す。 弟のところへ、早く行きたいのじゃがのぅ。 イラっとした気持ちを二人の魔族にぶつけていたのじゃ。「そう言われても我々も命令で来ておりますので、どくわけにはいきません」男の方が丁寧な受け答えをしつつも、ワシらの前に立ちふさがる。「そう言われてもじゃ。 ワシにはその命令とやらは関係ないのじゃ」いろいろと言われてもワシは知らん。 右に左に動くものの、その度にワシの前に立ちおる。 いっそのことぶっ倒そうかのぅ。 そう思い始めたら、その男はさっと後方に飛び、少し距離をとりおった。 勘が鋭いのぅ。「ねぇ、おばさんがゾルダ? へぇー、これがあのゾルダって人なの?」ワシを一瞥すると、魔族の男の方に確認をする。 しかし、ワシをおばさんじゃと?「そこの女! よっぽど死にたいのかのぅ」全身に魔力を込めはじめ、一撃くらわそうとしたその時、 あやつが止めに入ってきおった。「ゾルダ、ここでそれは…… 街にも被害が出るって。 ジェナさんにも言われているだろ」ここは街からは少し離れておるのに、あやつは律儀というか細かいのぅ……「少しぐらいいいじゃろ」「それじゃ、次からここにこれなくなるぞ。 祭りが楽しめなくなってもいいのか?」「うむ……それは困るのぅ……」こんな街ぐらいとは思ったが、祭りの出禁になるのはごめんじゃ。「だろ? だからここは我慢な」我慢と言われてものぅ。 うーん、しかし、こやつらは邪魔じゃしのぅ…… どうしたものかのぅ。「あっ。そうだ! シータ、お前がやれ! お前なら、街に被害出さずにやれるじゃろ」ワシはなかなか加減が難しいしのぅ。 シータならその辺りは心
数日にわたって開催されていたラヒド祭も今日が最終日。 この数日何をしていたかというと――『おい、見張りなんぞ最終日だけでよいのじゃ。 今日も祭りじゃ祭り』朝早く起きるなり、上機嫌のゾルダに首根っこを掴まれる。『ん…… まだ朝早いじゃん。 昨日も遅かっただろう。 もう少し寝かせてくれよ……』眠い目を擦りながらそう言うも『いいや、まだまだ足りんのじゃ。 存分に楽しまないとのぅ』そしてそのまま、祭りに引きずり出される。 セバスチャンやシータは苦笑いしながら、それについてくる。 そんな光景が繰り返されていた。ゾルダがそれほどまでに祭りが好きだったとは知らなかった。 でもよくよく考えると数百年封印されていて、その間何も楽しめなかったはず。 その反動もあって、楽しくて仕方がないのだろう。 そうそう祭りがある訳でもないし、今はゾルダの思い通りにやらせてあげよう。なんか親心みたいなものが芽生えてしまい、付き合っていたのだったが――「よし、今日は最終日じゃ! 名残惜しいが最後まで存分に楽しむのじゃ!」今日もまた朝から元気のいいゾルダ。「今日は最終日じゃん。 アスビモの商会の従業員たちに接触しないと……」ここに来た目的は祭りではない。 アスビモの居場所を探すためだ。 そのことを忘れてしまってないかと思うほど、満喫している。「そんなものは、ギリギリ最後でいいじゃろ。 撤収してから、街の外で脅せば一発じゃ」「いやいや。 途中で帰られたりしたらどうするんだよ。 一応、祭りの間もそれとなく気にして見ていたけど……」俺はゾルダに付き合って祭りを見て回ったものの、 気にはなるので、ところどころでアスビモの店を確認していた。「で、どうじゃったのだ?」「まったく帰る気配はなかったよ」売れる気配も無いのにずっとその場に居続けた。 しかも客足もずっと変わらないまま。「それなら、最終日も同じじゃろ」「とはいえさ……」さすがに最終日だし動きがあるのかもとは思う俺は、見張りをしようと提案する。「なら、お前ら三人で見ておけばいいじゃろ? ワシは祭りが終わったら街の外で合流するのじゃ」しかし、ゾルダは譲らない。 俺たちを置いて、さっさと街に繰り出していった。「マリー、ごめん、連日で。 ゾルダのこと